長尾FPのマッチング拠出

制度の解説

確定拠出年金で、マッチング拠出を選ぶ条件【FP解説】

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増加する企業型確定拠出年金の「マッチング拠出」(従業員拠出)について、さまざまな角度からファイナンシャルプランナー・長尾真一さんに解説いただきました。

ファイナンシャルプランナー・長尾真一さん

ファイナンシャルプランナー・長尾真一さん

マッチング拠出とは?

「マッチング拠出」とは、企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入者が自身の給与から掛金を上乗せして拠出できる制度です。

ただし、企業型DCの加入者であれば必ず利用できるわけではありません。会社の規約でマッチング拠出を導入していることが条件となります。

導入割合は約3割

企業年金の運用実態をまとめた厚生労働省のレポート(2018年6月30日現在)によると、企業型DCを導入する30,907社中9,507社(約30%)においてマッチング拠出は導入されています。

マッチング拠出を利用することで老後のための積立額を増やすことができ、後述する税制優遇のメリットを受けることができます。

マッチング拠出の上限額


  • 事業主掛金「以下」かつ
  • 事業主掛金と「合算して法令上の拠出限度額以下」(※)

企業年金ナシ 企業年金アリ
66万円(年額) 33万円(年額)
5万5,000円(月額) 2万7,500円(月額)

※法令上の拠出限度額:企業年金(厚生年金基金・確定給付企業年金)の有無で限度額が変わる

たとえば、企業型DC以外にも厚生年金基金・確定給付企業年金といった企業年金がある会社では、事業主の掛金とマッチング拠出を合算して月額2万7,500円が上限です。この場合、事業主の掛金が1万円だと、マッチング拠出も同額の1万円が上限となります。また、事業主掛金が1万5,000円の場合、マッチング拠出は1万2,500円が上限となります。

メリットとデメリット

マッチング拠出のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。

メリット


  1. 掛金の全額が所得控除の対象
  2. iDeCoと違い、運営管理手数料は会社負担
  3. 低コストの投資信託を運用でき、運用益も非課税

とくに影響が大きいのは(1)の掛金全額が所得控除になること。たとえば、独身で年収500万円の人が所得税10%、住民税10%の場合(※復興特別所得税は考慮せず)、1万円を給与として受け取ると20%課税されて手取り額は約8,000円になります。

同じ1万円をマッチング拠出の掛金とした場合、課税されることなく1万円を積み立てることができます。その差は年間にすれば2万4,000円(2,000円×12ヵ月分)、30年にわたれば72万円となります。

デメリット

注意が必要なのは、マッチング拠出の掛金とすると「原則60歳まで引き出せない」こと。

そのため急な資金需要に充てることはできず、老後資金を形成する目的以外には基本的に使えません。ライフプランや家計の資金計画を考えた上で、利用することが大切です。

「マッチング拠出」と「iDeCo併用」を比較

上述のとおり、マッチング拠出を利用するためには、会社の規約でマッチング拠出が導入されていることが条件です。

また、会社によっては、マッチング拠出は認めていないけども、iDeCo(個人型確定拠出年金)との同時加入を規約で認めている場合があります。

iDeCoもマッチング拠出と同様に掛金全額が所得控除になります。ただし、マッチング拠出を導入している場合、iDeCoに加入することはできず、マッチング拠出とiDeCoを併用できません。

つまり、「企業型DC+マッチング拠出」と「企業型DC+iDeCo」に分けて考えることができます。

マッチング拠出 iDeCo
掛金の月額上限(企業年金ナシ) 5万5,000円(※) 事業主掛金3万5,000円・iDeCo2万円
掛金の上限(企業年金アリ) 2万7,500円(※) 事業主掛金1万5,500円・iDeCo1万2,000円
運営・金融機関の選択 会社 個人
運用商品の選択 個人 個人
拠出回数 会社の規約 個人で決定
運営管理手数料 会社負担 個人負担
信託報酬 個人負担 個人負担
口座の管理者 企業型で一括管理 企業型とiDeCoは分別

※:事業主掛金とマッチング拠出の合算、かつマッチング拠出は事業主掛金以下

企業型DCの加入者がマッチング拠出を利用できるか、iDeCoを利用できるか、あるいはどちらも利用できないかは、会社の規約によるので個人が自由に選択できるわけではありません。

マッチング拠出を利用できる場合は、運営管理手数料が会社負担なのでコスト面ではiDeCoよりも有利です。

一方、iDeCoに同時加入できる場合は、運営管理手数料は個人負担になりますが、気に入った商品ラインナップの運営管理機関を自由に選ぶことができるというメリットはあります。

また、マッチング拠出でもiDeCo同時加入でも掛金の上限は同じですが、事業主の掛金が少額の場合、マッチング拠出は同額までしか拠出できないのでiDeCo同時加入の方が掛金を多く拠出できることがあります。

たとえば、事業主掛金が3,000円の場合、マッチング拠出は同額の3,000円までしか拠出できませんが、iDeCo同時加入の場合は1万2,000円もしくは2万円まで個人で拠出することができます。

「住宅ローンの繰り上げ返済」と「マッチング拠出」どっちを優先すべき?

住宅ローンがある場合、マッチング拠出には注意が必要です。

マッチング拠出の掛金分を住宅ローンに上乗せして返済する方が、結果的にメリットが大きいケースもあるからです。具体的な事例でチェックしてみましょう。

モデルケースAさん)
「事業主の掛金1万円と同額の1万円をマッチング拠出するか検討中」

年収600万円、所得税10%、住民税10%(※復興特別所得税は考慮せず)

住宅ローン借入額は2,000万円、金利1.35%/年(2018年5月フラット35の最頻金利)、30年・元利均等返済(元金+利息が一定)

このケースですと、Aさんの月々の住宅ローン返済額は6万7,593円、総返済額は2,433万3,563円(利息433万3,563円)になります。

住宅ローンの返済に上乗せする場合

Aさんは1万円をマッチング拠出することを検討していますが、マッチング拠出で積み立てるのではなく、住宅ローン返済に上乗せすることも可能です。

1万円のマッチング拠出は、所得控除により実質的には約8,000円の手取り減になりますので、同程度の額を返済に上乗せすることを考えてみます。

たとえば、月々の返済額を7万5,641円(6万7,593円+8,048円)とすると、返済期間を26年2ヵ月に短縮することができ、総返済額は2,375万1,035円(利息375万1,035円)になります。つまり利息負担が58万2,528円軽減されることになります。

マッチング拠出の場合

一方、毎月1万円をマッチング拠出して26年2ヵ月運用した場合、運用利回り別の運用益は次のようになります。

利回り 運用益
0.1%/年 4万1,308円
0.5%/年 21万3,922円
1.0%/年 44万7,423円
1.3%/年 59万7,751円
1.9%/年 92万3,644円

最近は、元本確保型の金利は0.1%にも達しない状況です。こうしてみると、マッチング拠出は節税メリットがあるといっても、元本確保型で運用するぐらいならば住宅ローン返済に回した方がメリットは大きいかもしれません。

判断のポイント

このケースでマッチング拠出の運用益が上回るためには1.3%以上の利回りが必要になります。

投資信託など株式を含めた分散投資をすれば、それほど高い目標ではありません。ただ、住宅ローンの利息軽減は確実なメリットであるのに対して、運用益は約束されるものではありません。

住宅ローンがある人がマッチング拠出を検討する場合、目先の税制優遇だけでなく、その後の運用についてもよく考えておく必要があります。

同じケースでも住宅ローンの金利が2.0%であれば、ローン返済上乗せによる利息の軽減効果は約90万円。それを上回る運用益を得るためには1.9%以上の利回りが求められます。住宅ローンの金利が高い人ほど、借入期間の短縮による利息軽減の効果が大きくなることも覚えておきましょう。

また、住宅ローンを借りると10年間毎年、住宅ローン残高の1%(40万円が上限)が所得税額から控除されます。これを「住宅ローン控除」と呼びますが、所得税額から控除しきれない場合、その分を前年課税所得の7%(最大13.65万円)まで住民税から控除することができます。

住宅ローンの借入額が大きい人は、この住宅ローン控除も大きく、マッチング拠出によって課税所得が下がると住宅ローン控除を使いきれなくなり、結果的にマッチング拠出による節税効果も限定的になることもあるので注意が必要です。

従業員は、確定申告する必要あるの?

マッチング拠出は「給与天引き」によって会社を通じて掛金を支払います。

拠出した掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象として年末調整で還付が受けられ、手続きは会社が行います。会社は拠出額をあらかじめ給与から控除して源泉課税する場合も多く、いずれにしても従業員個人は確定申告や年末調整の手続きをする必要はありません。

なお、マッチング拠出と似た制度で「選択制確定拠出年金」を導入している企業もあります。掛金が天引きであったり、拠出の有無や金額を従業員個人が選択できることから、マッチング拠出と混同される方もいます。

しかし、マッチング拠出と違って選択制の掛金は給与扱いされず、社会保険料の算定対象外になるという特徴があります。したがって、選択制の場合は、掛金の金額によって税金だけでなく社会保険料も軽減されます。

メリットある人は、どんな人?

最後に、マッチング拠出を積極的に考えてほしいのは次のような人です。


  1. 確実・効率的に老後資産の準備をしたい人
  2. 長期的な貯蓄が苦手な人
  3. 投資信託でなるべく効率的な運用をしたい人(DC運用商品は低コストかつ運用益が非課税)
  4. 共働きや高年収で余裕資産が多い人(60歳まで引き出す必要がない)
  5. 住宅ローンがない(少ない)人

これまで解説してきたとおり、マッチング拠出には注意すべき点もありますが、老後資金を準備するためのさまざまな制度の中でも、確定拠出年金のメリットはとても大きいと言えます。

特徴をよく理解した上で上手に活用していただきたいと思います。

この記事の著者

長尾真一(FP)

保有資格:AFP、企業年金管理士(確定拠出年金)、DCアドバイザー、トータル・ライフ・コンサルタント、損害保険プランナー。保険や確定拠出年金の専門家ファイナンシャルプランナーとして、個人相談や中小企業・大企業などに年間80回以上のセミナー講師を務めている。講演ののべ聴講者数は1万人を超える。

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