経済エッセイスト・井戸美枝さん

老後のお金

井戸美枝さん語る「定年夫婦」の新常識

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95歳まで生きる可能性は、男性なら約10パーセント、女性なら約25パーセント。人生100年時代、お金との付き合い方を見つめ直す必要があります。今、準備すべきことはなにか? 生き方とお金の知恵を、経済エッセイスト・井戸美枝さんが伝えました。

経済エッセイスト・井戸美枝さん

提供写真:井戸美枝事務所

既刊書が累計64万部を超える井戸美枝(いどみえ)さん。このほど上梓した新著『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』(集英社)は、“定年夫婦のお金”がテーマ。

2018年7月21日、書籍刊行を記念したセミナーが東京・丸の内にて開催。主催した、りそな銀行・りそな年金研究所 統括主席研究員の谷内陽一さんとのパネルディスカッションにも臨みました。

100歳まで考えるライフプラン

東京、大阪、名古屋、福岡の全国4都市で開催され、多くの反響から追加講演が決まったこの日。集まった来場者は、井戸さんが語りかける一つひとつの言葉に熱心に耳を傾け、資料にメモをとります。

「100年時代」の根拠

まず、引用されたのが“人生100年時代”を示すデータ。65歳まで生きた人が90・95歳まで生存する割合を示した調査結果です(平成29年に厚生労働省が公表)。

90歳まで生きる 95歳まで生きる
男性 25.6% 9.1%
女性 49.9% 25.2%

表:政府統計:平成28年簡易生命表の概況(厚生労働省)を基に編集部作成

10人にひとりの男性、4人にひとりの女性が95歳まで生きる現実。定年60歳からの人生は、意外と長く続きます。

これまでより2,000万円増える老後資金

長寿時代は、お金の常識も変わる。

求められる姿勢について、井戸さんは同書内でこう表現しています。

「長生きするようになったからたくさんお金を準備する」ではなく、「長生きするようになったからお金の準備のしかたを変える」のです。

出典:井戸美枝『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』,集英社,2018,p.26

また、同書では具体的な数字にも多く触れており、人生100年(定年後の持ち時間40年)を想定した老後資金のシミュレーション結果を解説しています。

正確な統計値ではないとしつつも、会社員と専業主婦の場合、老後に年間100万~150万円不足するケースが多いそう。

年間の不足額を100万円と仮定すると、単純計算で老後(定年後40年)の総不足額は4,000万円(100万円×40年)の見積もり。

人生80年(定年後20年)のケースと比較し、不足額が2,000万円増える可能性があると指摘します。

定年後は夫婦で月5~6万円の収入を

最近はもっぱら、“定年後の働き方”や“資産の取り崩し”をテーマにした取材が多くなったと明かす井戸さん。

「いろんな考え方はある」と前置きした上でお金を取り崩す時期をなるべく後ろにしたほうがいいと考えを示します。

100歳まで生きる予定ですからね。65歳まで働いたとしても、まだまだ30~40年ありますから。

セミナーでは、2016年の総務省家計調査から推定した、高齢者夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の収支データも説明。実収入の平均が1ヵ月で約21万円に対し、平均支出が約26.5万円。結果として、毎月約5.5万円の赤字を読みとり、伝えます。

この赤字に対しては、「働く考え」を持つことを提案。

夫婦で5~6万円の収入があれば、不足分を相殺しながら、取り崩しを後ろ倒しにできると説明します。同書ではさらに、ケース例や最新の制度に基づき、定年後の働き方について紹介しています。

公的年金を4割増やす方法

井戸さんは、続く谷内陽一さん(りそな銀行・りそな年金研究所統括主席研究員)とのパネルディスカッションにて、公的年金の受け取り方について2つのアドバイスをおくります。


  1. なるべく受け取りを繰り下げる(遅らせる)
  2. 夫婦で繰り下げ方を考える

原則65歳の支給開始年齢を1ヵ月遅らせるごとに0.7%増額年間8.4%を5年間(70歳まで)繰り下げることで42%増額できる現行制度を紹介します。

ただし、70歳まで繰り下げた場合は65歳受給と比較し、受給期間12年前後が損益分岐点となること、また、およそ年額40万円が上乗せされる加給年金の受け取りに支障が出るケースには注意が必要とします。

「iDeCo」で、繰り下げ期間を埋める

公的年金制度が破たんすることはないが、給付水準は現在よりも1割から2割くらい目減りするのは避けられないと言われています。しかし、公的年金は受給開始を繰り下げることによって、最大1.4倍増額できますと谷内さん。

そして公的年金の繰り下げによって生じる“5~10年の空白期間”への備えは、就労期間を長くすることと、iDeCo(個人型確定拠出年金)など税制優遇の手厚い制度を活用することを提案します。

イメージ図(iDeCoを活用して公的年金の繰り下げ期間を埋める)

イメージ図:セミナー資料を基に編集部作成

iDeCoの税制上のメリットは大きく3つ。掛金が全額所得控除(所得税・住民税が軽減される)運用益が非課税(効率よく運用)退職所得控除・公的年金等控除(受け取り時の税負担が軽減)

個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)の税制メリット3つを示した図 width=

イメージ図:編集部作成

谷内さんは、iDeCoの金融機関選びで陥りがちなポイントとして、長期の積立投資では口座管理手数料だけでなく「信託報酬」も考慮すべきと助言。りそな銀行では、信託報酬を比較的安く抑えているほか、対面で相談できる専門窓口「つみたてプラザ」を設けるなど、サポート体制を充実させていることを、来場者にアピールしました。

【インタビュー】なぜ“定年夫婦”をテーマに?

「定年夫婦」という、人生のフィナーレを飾るこの時期を、苦労せず、幸せに生きるためにすべきことを、私なりにじっくり考えた――。

井戸美枝さんは、あとがきの一文で、著書に込めた思いをこのようにつづっています。

年金破たん、老後破産……危機感を強めるような見出しが踊る時代。

いったい、なにを信じればいいのでしょうか。

この『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』は、そんな悩みへの接し方を具体的に指南し、不安をときほぐす一冊。

「100歳までお金に苦労しない定年夫婦」(井戸美枝さん)書影

書影提供:集英社

SENECT(セネクト)は、“定年夫婦の教科書”とも呼べる同書について、井戸美枝さんにインタビューしました。

定年後のロールモデルは、男性が多かった

――井戸さんは昨年2017年だけでも、『定年男子 定年女子』(日経BP社)や『身近な人が元気なうちに話しておきたい お金のこと 介護のこと』(東洋経済新報社)など複数冊にわたって、老後がテーマの本を世に送り出しています。今年も出版されたのは、なぜでしょう?

井戸さん 定年後の生活を主題にした本のほとんどは、“男性が定年退職したらどうするの?”という悩みにこたえるモノが多い印象がありました。

しかし、実際はパートナーと暮らすケースが多いのが現実です。

そこで、夫婦単位」で考える本がないなと感じ、本を出しました。

――なるほど。それで「定年夫婦」をタイトルにしたんですね。

井戸さん 実はこのタイトルも考えまして、定年夫婦なる、としています。

つまり、50代の方だけでなく、とくに40代半ばの方に読んでいただきたいと思っています。

実際、私に寄せられる相談の多くが、定年を直前に控える方よりも、40代半ばの方からの準備段階の悩みが多いです。

定年後をリアルに想像できている人は少ない

――制度紹介など多岐にわたる一方、とくに参考になったのが随所に散りばめられた「ケース例」でした。「困った困った定年夫婦」の事例では、定年時に貯蓄4,000万円を準備していたはずが……結果、自制を忘れて苦しむ結果となりました。

井戸さん 多くの人が抱えるのは、なにが分からないのか分からないといったぼんやりした悩みです。

しかし、なるべく数字に落とし込んでいくと、本当に困った状況なのか、もしくは心配する必要はないのか理解できます。

そのため、どこがポイントになるか? できるかぎり具体的な事例を挙げながら、対処法を示しました。

『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』(集英社 1,300円+税)

「100歳までお金に苦労しない定年夫婦」(井戸美枝さん)書影

全国書店やAmazonにて発売中。

(取材協力:井戸美枝事務所・井戸美枝さん、りそな銀行、集英社、文:SENECT編集部)

この記事の監修者

井戸美枝(社会保険労務士)

著書累計64万部、日本イチ年金通の社会保険労務士。ファイナンシャルプランナー、CFP(R)。厚生労働省社会保障審議会企業年金部会委員も務める。テレビやラジオ、新聞など多数メディアでライフプランや資産運用について発信。近著に『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『定年男子 定年女子』(日経BP社)、『身近な人が元気なうちに話しておきたい お金のこと 介護のこと 』(東洋経済新報社)などがある。

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