制度の解説

長生き重視『トンチン保険』を深く知る5つの質問

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トンチン保険……。文字面だけみると、さっぱりなんのことだか。 それもそのはずで、従来の保険とは逆転の発想から生まれた制度だそう。その歴史から商品のメリット・デメリット、年金保険や公的年金との使い分けまで、社会保険労務士・菅田芳恵(すがたよしえ)さんが解説します。

記事を執筆した社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー菅田芳恵(すがたよしえ)さん

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー菅田芳恵(すがたよしえ)さん

Q1:どんな仕組みなの?

世界に類を見ないスピードで超高齢化社会を迎えつつある日本。平成28年簡易生命表(厚生労働省)によると、男性の平均寿命は80.98年、女性の平均寿命は87.14年です。

年(平成) 男性 女性
2年 75.92歳 81.90歳
7年 76.38歳 82.85歳
12年 77.72歳 84.60歳
17年 78.56歳 85.52歳
22年 79.55歳 86.30歳
27年 80.75歳 86.99歳
28年 80.98 87.14

出典:平成28年簡易生命表の概況(厚生労働省)より編集部スタッフ作成

また、男女それぞれ10万人の出生に対して、75歳まで生存する者の割合は男性75.1%、女性87.8%。90歳までは男性25.6%、女性49.9%。

これらの数字から考えると、90歳まで生きる男性は4人に1人女性は2人に1人

長生きには、かなりの確率でリスクがあります。人生80年どころか「人生100年時代」が現実のものとなりつつあるのです。

そして、長生きに伴い、老後資金が不安材料に。

そんな不安に備えるために登場したのがトンチン保険です。

トンチン保険とは、一言で「長生きするほどトクする保険」

“トンチン”の響きは日本人の感覚からすると、おかしなネーミングに感じるかもしれません。トンチン保険の由来は、この制度を考案した人の名前からです。

トンチン保険とは、死亡保障や解約返戻金を抑えることで、生き残っている加入者で分配して保険金(年金)を受け取る保険のことです。

例えば、100人の加入者が1人当たり300万円の保険料を支払ったとします。総額3億円の保険料です。

保険料払込期間満了となる20年後に100人のうち半分の50人が死亡したとします。すると、この3億円(運用益は考慮しない)の保険料を50人で分配した結果、1人あたり600万円に。支払った保険料の約2倍になります。

トンチン保険の仕組み(イメージ図)

イラスト:いらすとや/編集部スタッフ作成

早く亡くなった人は損をし、長生きした人ほど得する仕組み。これがトンチン保険です。

これまでの保険と言えば、死亡保障を厚くして「死亡リスク」に備えるものが主でした。

そのため、保険金は加入者ではなく、その遺族に支払われます。また、途中でお金が必要になると、解約して解約返戻金としてそれまでに支払った保険料分が戻ってきました。

「遺族のための保険」に対し、トンチン保険は「自分自身の老後のための保険」とも表現できます。

したがって、「保険=死亡保障」と考えるのではなく、「保険=老後資金」と、考えると分かりやすくなるかと思います。

さらに言えば、長生きしたケースに備え、資金に余裕ができた50歳以降に加入する“公的年金や預貯金では足りない分を補う保険”といった位置づけとなるのではないでしょうか。

Q2:メリットとデメリットは?

高齢の夫婦(イラスト)

イラスト:studiolaut / PIXTA

以下、トンチン保険のメリット・デメリットです。

メリット

  • 長生きリスクに備えることが可能。
  • 老後を目前に資産を増やそうと考えた場合、年齢が高くても加入できる。
  • 個人年金保険料の対象となり(条件を満たす場合)、税金を安くすることが可能。

デメリット

  • 50歳以降しか加入できない。
  • 保険料が高い。
  • 年金受け取り前に死亡・解約した場合、支払った保険料の7割ほどしか戻ってこない。
  • 平均寿命以上に長生きしなければ元が取れない。
  • インフレとなった場合、年金の価値が下がる。

デメリットに比べ、メリットが少ないように思われます。

しかし、トンチン保険は長生きすることよりも、老後資金の補いを第一と考えていますので、不安を解消する意味だけでも十分なメリットと言えます。

Q3:個人年金保険とどう違うの?

個人年金保険のパンフレット

写真:CORA / PIXTA

老後資金づくりのために活用されている個人年金保険。

トンチン保険と決定的に違う点は、保険に加入してから年金を受給するまでの間に死亡したケースや解約時の取り扱いです。

従来の個人年金保険は、死亡・解約した場合、その時点で払込保険料相当額が支払われます。

しかし、トンチン保険は払込保険料相当額の約7割しか戻ってきません。つまり経済的に損をします。

個人年金保険は、加入が早ければ早いほど保険料が安く、加入期間は長くなり、家計にあまり負担をかけないで老後資金を準備できる保険です。

また、年金を受給できる年齢を60歳から選ぶことができます。

しかし、50歳以降に加入しようと思っても、期間が短く加入資格がない商品がほとんどです。

そこで、50歳以降の方を対象にしたトンチン保険が登場しました。

保険料は高く、年金を受給できるのは早くても70歳以降という商品がほとんどです。そのため、資金に余裕はあるが預貯金だけでは不安を感じるような方に向いている商品と言えるでしょう。

Q4:公的年金だけじゃ足りないの?

老後資金のメインは、なんといっても公的年金。

死ぬまで年金を受給できる“一番おトクなトンチン保険”の一種です。

年金手帳を手にする高齢の夫婦(イラスト)

イラスト:naoe / PIXTA

しかし、この公的年金制度は、現役世代の保険料で高齢者の年金を負担する仕組みになっているため、高齢者の割合が増え続ける現状では、すでに破綻が迫っています。

「今後、年金の受給開始年齢は70歳になるのでは?」と、ささやかれているのは周知の事実です。

この超高齢化社会において、老後資金を準備する一つの方法として知られているのが、公的年金の受給を遅らせる「繰り下げ受給」。

そして、繰り下げ受給で年金額を増やしながら、遅らせた期間を働く考え方があります。

繰り下げ受給でどうなる?

公的年金を繰下げ受給すると、1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ増額されます。

原則65歳受給から最長70歳での繰り下げ受給を選ぶと、年金額はその5年間で最大42%増額に。

例えば、公的年金を65歳から100万円受給できる人が、70歳に繰り下げ受給にすると、約142万円となります。

60歳受給開始と65歳受給開始と70歳受給開始を比較したグラフ(損益分岐年齢の折れ線グラフ)

編集部スタッフ作成

65歳受給開始と70歳受給開始を比較すると、受け取った年金総額の損益分岐年齢は、81歳11ヵ月で追い越し、それ以上長生きすれば、さらにお得になります。

【参考】:年金受給を70歳以上に遅らせたら?【シミュレーション】

このように長生きリスクを公的年金で補う方法もありますが、年金受給額も年々下がっていることを考慮すると、公的年金だけでなく別の方法で準備することも必要だと思います。(文:菅田芳恵さん)

Q5:トンチン保険には、どんな商品がある?

延び続ける平均寿命。死亡時の保障ではなく、長生きリスクに備えるために用意されたのが「トンチン保険」でした。

最後に、民間の保険会社が実際に提供するトンチン保険の商品内容を比較してみましょう。

  • 日本生命『グランエイジ』
  • 第一生命『ながいき物語』
  • 太陽生命『100歳時代年金』
  • かんぽ生命『長寿のしあわせ』

などありますが、今回は日本生命『グランエイジ』と第一生命『ながいき物語』を例にします。

日本生命『グランエイジ』のパンフレット

日本生命『グランエイジ』のパンフレット

第一生命『ながいき物語』のパンフレット

第一生命『ながいき物語』のパンフレット

日本生命『グランエイジ』は、「5年保証期間付終身年金保険」に50歳で加入し、70歳から受け取るケース。

第一生命『ながいき物語』は、「10年保証期間付終身年金保険」に50歳で加入し、70歳から受け取るケース。

100歳まで長生きした場合の返戻率をみると、「ながいき物語」のほうが高くなります。

  グランエイジ ながいき物語
加入(契約)年齢 50歳 50歳
受け取り開始年齢 70歳 70歳
保証期間 5年 10年
月払保険料(男性) 50,790円 48,000円
月払保険料(女性) 62,526円 60,000円
払込総額(男性) 12,189,600円 11,520,000円
払込総額(女性) 15,006,240円 14,400,000円
年金額(男性) 600,000円 605,800円
年金額(女性) 600,000円 608,500円
損益分岐年齢(男性) 90歳 89歳
損益分岐年齢(女性) 95歳 94歳
100歳時の返戻率(男性) 152.6% 163.0%
100歳時の返戻率(女性) 123.9% 130.9%

日本生命「グランエイジ」、第一生命「ながいき物語」、太陽生命「100歳時代年金」、かんぽ生命「長寿のしあわせ」のトンチン保険4商品を比較した記事は以下を参考ください。

(文:SENECT編集部 情報:平成30年2月14日計算基準日)

この記事の著者

菅田芳恵(社会保険労務士)

菅田芳恵(社会保険労務士)。社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士CFP(R)、産業カウンセラーなどの資格を保有。愛知大学法経学部経済学科卒業後、証券会社、銀行、生保、コンサルティング会社勤務後、独立開業。三重県金融広報委員会金融広報アドバイザー、名古屋市中小企業振興センター相談員も務める。

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